2022年6月9日ー環境NGOの国際ネットワーク「Insure Our Futureキャンペーン」と、韓国の環境NGOである「Solutions for Our Climate (SFOC) 」が発表した報告書「Exposed: The Coal Insurers of Last Resort(※1)」によると、日本の大手損害保険会社であるMS&AD、東京海上、SOMPOの3社が、ベトナムのブンアン2など、事例調査した石炭火力発電事業のうち4事業に対し、巨額の保険引受を行っており、海外の保険会社が石炭事業の引受から続々と撤退する中、日本の保険会社が最後の引受者になっていた実態が明らかとなった。
韓国の国会議員を通じて入手したデータによると、韓国電力公社が関与した5つの石炭火力発電事業のうち、フィリピンのセブ・ナガ石炭火力発電所、ベトナムのギソン2石炭火力発電所およびブンアン2石炭火力発電所、インドネシアのジャワ9・10石炭火力発電所において、日本の3大損保である、MS&AD・東京海上・SOMPOの3社全部、またはいずれかが保険を引き受けている実態が明らかとなった。個別事業における保険引受状況が公開されることは極めて稀な事である。
特にブンアン2(※2)については、MS&ADが12億1600万米ドル、東京海上が5億6,900万米ドル、SOMPOが2億3,800万米ドルの保険金規模で保険引受を行っており、3社が事業の主要な保険担い手となっている(表1を参照)。3社の引受額の総額は、ブンアン2の全体引受額の約46%を占めている。
ブンアン2の保険契約は、2021年10月より開始されたが、MS&ADは同年6月に「今後計画される石炭火力発電所の保険引受や投融資を行わない」と発表し、石炭に関する方針強化を発表した直後のことだった。これについてMS&ADは、新しい方針はすでに交渉の段階に入っている事業には適用されないとの説明をしており、抜け穴を用意していたことが表面化した。同様に、東京海上は2021年9月に、SOMPOは2020年9月に、原則として石炭火力発電事業への新規引受は行わないと表明していたにもかかわらず、2021年10月からのブンアン2の保険契約を行っていた。
報告書では、2018年に保険契約が締結されたギソン2と2021年のブンアン2を引き受けた保険会社の顔ぶれ等を比較しており、ここ数年の間に保険会社の間で脱石炭方針が浸透した結果、石炭火力発電事業の保険会社の顔ぶれが変わったことにも触れられている。今後、既存石炭事業への保険を確保していく難しさも示唆している。
MS&AD、東京海上、SOMPOの3社は、石炭火力発電事業の新規保険引受および投融資の停止を表明しているものの、石炭火力事業の既存の保険契約に関するフェーズアウト目標については方針がなく、石油・ガス事業についての包括的な引受停止方針もなく、欧州の保険会社に大きく遅れをとっている。1.5度目標との整合性をとるために、これらの方針を早急に掲げるべきである。
本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 田辺有輝(tanabe@jacses.org)
脚注:
※1:http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2022/06/kepcoreportjp.pdf
※2:ベトナムのブンアン石炭火力発電所については、ベトナムの国営企業であるペトロベトナムが運営するブンアン1(1,200MW)に続き、韓国電力公社(KEPCO)(40%)、三菱商事(25%)、中国電力(20%)、四国電力(15%)のコンソーシアムによって、ブンアン2(1,200MW)が建設中である。