共同声明:
東京海上がGHG高排出企業からの保険引受撤退条件を表明するも、パリ協定1.5度に整合的な移行かどうかは不明確
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
メコン・ウォッチ
Insure Our Future
3月13日、日本の大手損害保険会社の1つである東京海上ホールディングス株式会社(以下、東京海上)は、東京海上日動火災保険株式会社において温室効果ガス(GHG)高排出企業60社を対象に、2030年までに脱炭素計画を有していない企業とは取引を行わない方針を表明しました(※1)。2月26日から3月3日の間に開催された『グローバル・ウィーク・オブ・アクション』では、世界31カ国で100以上の抗議活動が市民団体によって行われましたが、保険会社に対して変革を求める市民の声が一部届いたと結果とも言えます。石油ガス、鉄鋼、セメント等のGHG高排出企業との取引を停止する方針を掲げたのは、アジアの損害保険会社として初であり、私たちは東京海上の先駆的な取り組みを歓迎する一方で、東京海上に対して、保険引受ポートフォリオの排出削減目標を設定すること、及び保険引受先企業にパリ協定1.5度目標に整合する脱炭素計画を提出するよう求めること等を要請します。
今回、東京海上が発表した新しい方針では、60社に求められている脱炭素化計画の内容について具体的な要件が設定されていません。東京海上は、対象企業に対して国連が推奨するHigh-Level Expert Group on the Net-Zero Emissions Commitments of Non-State Entities (HLEG)やScience Based Targets(SBT)に準拠した移行計画を掲げること等、パリ協定の長期目標と整合的な移行計画を求める必要があります。なお、国際エネルギー機関(IEA)の2050年ネットゼロシナリオでは、発電セクターのネットゼロ年限は2040年であり(※2)、2050年では遅すぎるとされています。気候危機の緊急性を考慮すれば、化石燃料企業に脱炭素計画作成を求める年限も2030年では遅すぎ、2025年に短縮化を図るべきです。
また、火力発電における水素・アンモニア混焼技術は、パリ協定の1.5度目標に整合しない可能性が高い上、経済的・技術的な実現可能性が不透明です。このような、経済合理性のない脱炭素技術や特定の技術が実現しなかった場合のリスク回避策についても対象企業に確認を行うべきです。
さらに、東京海上は、昨年5月に保険業界における2050年までの温室効果ガス排出ネットゼロを目指す国連主導の国際イニシアチブであるNZIAから脱退した際に、脱退後もパリ協定に基づく脱炭素社会への移行に貢献する方針に変わりはないと述べていますが(※3)、保険引受ポートフォリオ排出量および中期削減目標をいまだに公表していません。昨年11月、MS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社は、保険引受先・投融資先に係るGHG排出量を2030年度までに2019年度比で37%削減すると発表し(※4)、日本の損害保険会社として初めて保険引受ポートフォリオ排出量の中期目標を掲げました。欧州では、仏大手のアクサが、2021年を基準年として、2030年までにアクサの商業保険の大口顧客の絶対炭素排出量を30%削減することを発表しており(※5)、独大手アリアンツも2030年までに商業保険のGHG排出原単位を45%削減すると発表しています(※6)。東京海上は、保険引受ポートフォリオ排出量削減の中期目標を公表するべきです。
東京海上の今回の方針は、対象を東京海上日動の取引先に限定していますが、東京海上キルンを含む東京海上グループの全子会社に拡大するべきです。また、東アフリカ原油パイプライン(EACOP)やキャメロンLNGプロジェクト等の問題の多い事業を含む、全ての新規化石燃料事業への保険引受の停止方針を掲げることを要請します。