大手損害保険会社での確固たるキャリアがあったにもかかわらず、気候変動への強い危機感から環境NGOにキャリアを転換されたTakaさん。ボランティア活動からスタートし、2019年には350 Japanの代表に就任されました。保険業界にいた時から、気候変動のもたらす自然災害の増加をひしひしと感じていたとTakaさんは話します。今回のインタビューでは、そんなTakaさんがどのようにして環境問題に関わることになったのか、キャリアチェンジのきっかけと、日本の気候変動ムーブメントの現状についてお話を伺いました。
Takaさんの経歴
- 1976年 大学を卒業し新卒でAIGの子会社AIUに入社
- 1987年 財務部に異動
- 1990年 AIU財務部長に就任
- 1992年 AIGの子会社アメリカンホームの代表に就任
- 1997年 日本初の自動車保険通信販売を開始
- 2000年 AIUの社長に就任
- 2006年 アメリカンホームの代表に再就任
- 2010-2017年 AIGの子会社である富士火災の社長を務める
- 2019年 350 Japanの代表に就任
- 2022年 ワタシのミライの運営チームで活動
環境問題に関する市民活動に関わりたいと思われたきっかけはありましたか?
就職をした1970年代は、水俣病や四日市の大気汚染など、公害が非常に大きな社会問題になっていた時期でした。メーカーだと公害に関与してしまう可能性があると思い、公害に関係のない企業を選ぼうと思って最終的に損害保険会社に就職しました。
当時から環境問題には関心があり、会社に入った後も自主的に勉強していました。UNHCRの募金活動をするために、アマチュアのオーケストラを呼んで教会でチャリティーコンサート企画したり、30歳の時には、残念ながら合格できませんでしたが青年海外協力隊に応募しました。ただその後は、仕事も忙しくなって、あまり社会活動ができていませんでした。そんな時に、アメリカ人の同僚が「立派な社会人になるためには、三つの責任を果たさなければいけない。家庭に対する責任と仕事に対する責任と社会に対する責任の三つを追求して立派な市民になる」と言われました。その時、仕事と家庭の方はそこそこできていたと思いましたが、社会貢献が全然できていないということに思い至りました。
退職後環境に関するボランティア活動をしようと思っていた時に、ナオミ・クラインの「これがすべてを変える: 資本主義vs.気候変動」を読みました。これが素晴らしい本で、読んでいたら著者が理事を務める350.orgの名前がありました。それで興味を持って日本事務所に電話して、2018年7月に350 Japanのボランティアを始めました。その後、当時代表だった古野さんがアジア担当に就任することが決まり、僕に「ちょっと応募してみない?」と声がかかりました。
ボランティアからの叩き上げという形で、350 Japanの代表になられたんですね!
そうですね。ですが、僕はNGOでの経験が少なかったので、入ってみるとやはり会社との違いに驚きました。気候変動の本もたくさん読んではいましたが、知識が全然足りていないと痛感しました。
環境問題の中でも、特に気候変動に対して取り組みたいと思ったきっかけは何かありましたか?
「成長の限界」という本がありますが、この本が出た頃から気候変動に関心がありました。保険会社に勤めていた時代も、いろいろな意味で気候変動の影響は感じました。火災保険は通常、洪水や風水害などの自然災害も対象となります。火災保険というのは伝統的にすごく利益が出る商品ですが、私の保険キャリアの最後の方になると、自然災害が増えて利益が出なくなってきました。自然災害が増えると会社の業績に影響がありますので、そういう意味でも変化はひしひしと感じていました。
損保の仕事されてる方も、気候変動の影響っていうのは感じるものなんですね。
日本の会社は感度が鈍かったです。当時、日本の保険会社は売上優先主義で、売れるものはどんどん売るという風潮がありました。だから、災害が増えたら保険が売れるという考えでした。営業分野が社内で強かったようです。
一方アメリカの会社は、会社の健全性という観点から収益を考えながら経営しているので、気候変動に対してもいろいろな手を打っていました。そこは日本とアメリカの会社のカルチャーの違いですね。あとは、外国では市民社会の声が大きいというのもあります。特に石炭火力などは、社会からの批判の声が強いです。
金融業界が気候変動について、どのような役割を担っているかを教えてください。
日本は、温室効果ガス(GHG)排出量が最も多い発電方法である石炭エネルギーへの依存率が高いという問題があります。日本の大手銀行とエネルギー会社には非常に深い歴史的な関係があり、銀行が株を持ったり、融資をしたりと資金面での支援を行っています。
そこで私たちは、銀行がその資金支援を絞ることによって、化石燃料による発電事業をやめさせることができると考えてアクションをしました。GHG排出企業を支えている資金という大きな柱を外そうという考え方です。最近は日本でもようやく銀行が方針を強化し始めています。ピープルパワーとトップダウンの株主提案の両側からプレッシャーをかけることで、成果が出始めていると思っています。
銀行と比較して、損保が気候変動について担う役割にはどのような違いがありますか?
私は損害保険会社に42年間勤めていましたが、損害保険会社が気候変動にここまで関係しているという意識はありませんでした。でも当時、Insure Our Futureのプログラム・ディレクターだったピーター・ボシャードと話して、「そういう役割があったのか」と感じました。生命保険会社と損害保険会社とは少し特徴が違っていて、生保は資産の額がとても大きいんです。だからアセットオーナーとして、資金の提供先を選ぶことで、気候変動の緩和に貢献することができる立場です。
一方損保の場合、資産は持っていますが、生命保険会社と比べるとアセットオーナーとしてのその影響力は小さいと思ってます。しかし損害保険会社は「保険を引き受けない」という選択ができるという点で、とても強い武器を持っています。例えば、損保が石炭火力発電所の保険引受を停止した場合、石炭火力発電所は稼働が不可能になります。事故が起こった際に自己責任で補填しなければいけないとなった場合、企業は発電所を稼働することができなくなります。
これに加えて、損害保険会社は気候変動で自然災害が増えてくると保険金の支払いが増えて赤字になるという構造的な問題も抱えています。自社の収益を守るためにも気候変動を止めなければならないという動機があります。保険を提供しないという武器を使って、脱化石燃料に貢献するべきだと私は考えています。
Insure Our Futureのスコアカードを見ていても、私の出身であるAIGのスコアが非常に低くて悲しいですね。元上司だった当時のAIGのCEOがオーストラリアのアダニ炭鉱への保険提供を続けていたので、「やめた方がいい」とメールを送ったこともあります。
保険会社に気候変動を求める活動を日本の方々に広めていくために、必要なことってなんでしょうか?
日本だと歴史的に気候変動を「天災だから」と諦めてしまう傾向があります。日本は昔から災害大国なので、何年かおきに大きな台風は来るみたいなところがあって、近年増えてはいるけれども、「今年も来たか」という感じで受け入れてしまう人もまだまだ多いですね。これが、人為的な原因で人為的に解決できるという考え方にまだなっていないと思います。
350 Japanでは、気候変動の基礎について理解してもらうための気候変動基礎クラスを開いています。関心のある方はすごく関心がありますけれど、全体としてはまだまだだなと思います。日本でも、市民活動やアクションに参加することが広がればいいなと思います。
今後はどのような活動をされるのでしょうか?
気候変動にはずっと携わるつもりでいます。こんなに大きな問題を見て見ぬふりはできないと思っているからです。ただ、350.orgはもともとアメリカの学生が作った団体だということもあり、20代後半から50代ぐらいまでの人を対象に活動している団体です。だから私は日本でもリーダーは同じような年代の人すべきだと考えています。私は今年で70歳になるので、フルタイムは退任する予定(※)ですが、新しいNGO横断的な運動ができるのでそこで活動します。
※インタビュー時の情報