全ての記事へ

リオ・グランデLNG建設に反対する現地住民の代表団が来日。SOMPO等支援企業に事業撤退を訴える

米国テキサス州リオ・グランデで加速するLNG(液化天然ガス/メタンガス)事業の建設に関して、現地住民の代表団が日本を訪問し、事業の支援を行う保険会社や銀行に対して支援を中止するよう要請しました。

記者会見を行った代表団一行(撮影:RAN / Masaya Noda)

先住民族カリゾ・コメクルド族を含む現地コミュニティが強い反対の意を示す中、現在テキサス州南部のリオ・グランデ・バレーでは、ネクストディケイド社のリオ・グランデLNG、グレンファーン社のテキサスLNG、エンブリッジ社のリオ・ブラボー・パイプラインなどの液化天然ガス(LNG)事業の計画が進められています。

このLNG事業を支援する企業の中には、日本の大手保険会社であるSOMPOホールディングスや三菱UFJ銀行、みずほ銀行の名も挙げられています。これらの事業は、生態系の破壊、地元経済への悪影響、健康被害など、現地コミュニティへの深刻な影響が懸念されます。また、リオ・グランデLNGの建設地はカリゾ・コメクルド族の聖域「Garcia Pasture」の一部であるにもかかわらず、彼らの同意なしに建設が進められていることが明らかになっています。

カリゾ・コメクルド族代表 マンシアス氏のコメント(RANプレスリリースより)

「企業はこの土地を占拠しようとしています。化石燃料で富を得るお金持ちのためにです。LNG事業は私たちの空気や水を汚染し、先祖代々の土地を冒涜します。企業はこの土地を破壊しようとしています。そのために、私たちの民族を(存在しないものとして扱うことで)滅ぼそうとしています。私たちはそれを許しません。私たちはもう脅しには屈しません」

記者会見で発言するマンシアス氏(撮影:RAN / Masaya Noda)

代表団は、今回の日本訪問で日本外国特派員協会の記者会見に登壇したほか、リオ・グランデLNG事業を支援する三菱UFJ銀行などの銀行や、SOMPOホールディングスと会合を行い、支援の中止を強く訴えました。

SOMPOホールディングスを訪問した代表団(撮影:RAN / Masaya Noda)

SOMPOホールディングスは、リオ・グランデLNGに保険を提供することで事業の実現を可能にしている損害保険会社の一つであることが明らかになっており、6月にはInsure Our Futureも保険引受の停止を求める共同署名を提出しました。

また、8月にはJACSES、FoE Japan、メコン・ウォッチ、RANと共同でSOMPOの株主50社に要請書を送付し、SOMPOに対しリオ・グランデLNG事業を含む新たな化石燃料プロジェクトの引受中止を働きかけるよう要請しています。

本年8月にはスイス登記の米国保険会社であるチャブが、リオ・グランデLNGへの保険提供を中止するなど、反対運動の成果も見えつつあります。また、米国では裁判の結果、「このリオ・グランデ・バレーで計画されている3つのLNG事業(リオ・グランデLNG、テキサスLNG、リオ・ブラボー・パイプライン)は、適切な環境・社会影響調査なしに許可された」として、事業の承認が事実上取り消されました。これにより、リオ・グランデLNGの炭素回収貯留(CCS)プロジェクトも訴訟の結果を受けて中止が発表されました。

リオ・グランデ・バレーにおけるこれら3つのLNG事業には、環境的リスク、先住民族の権利侵害に加え、経済的リスクに対する懸念も強く、事業を支援する企業もその影響を受ける可能性があることが分かっています。チャブだけでなく、三井住友銀行、ソシエテ・ジェネラル、BNPパリバ、ラ・バンク・ポスタルなどの銀行も事業から撤退するなど、リオ・グランデLNGを支援する企業が立て続けに事業から身を引いています。

2024年10月、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、南テキサス環境正義ネットワーク、カリゾ・コメクルド族が共同で事業支援を行う企業や投資家に向けたリスク報告書を発表しました。これによると、事業には次のような懸念があると指摘されています。

経済的なリスク

ネクストディケイド社による当初の予定では、2017年に基地の最終投資決定(FID)が行われ、2020年第4四半期に操業が開始される計画でした。しかし、同社の規制当局への対応が不十分であったことや、訴訟、地域住民からの反対、石油・ガス市場の不安定さなどの要因により、事業は度重なる遅延に直面しています。

同社は2023年の年次報告書で事業の経済的リスクについて以下のようにコメントしています。

「リオ・グランデLNG施設の第1フェーズの建設資金調達のために発生した多額の負債は、リオ・グランデLNGのキャッシュフローと事業運営能力、債務約款の遵守、債務返済能力に悪影響を及ぼす可能性がある」

実際に同じテキサス州ポートアーサーにあるエクソンモービル社とカタール・エナジー社のゴールデンパスLNG基地は、主要な請負業者であるザックリー・ホールディングスの破産申請により、3年の遅延が必要であると発表しました。

また、米シンクタンクのエネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA)は、LNG産業が今後2年以内に供給過剰に陥る可能性があるとの報告を出しています。現在は日本、韓国、欧州がLNGの需要の半分以上を占めていますが、総輸入量は今後減少し続ける見通しで、このような市況が続けば、低価格・無利益の期間が長期化する可能性があります。

このように先行きの見えない事業に投融資を行うことは、損害保険会社や金融機関、投資家にとっても大きなリスクがあります。保険会社も資産運用を通じてLNG事業拡大支援の重要な役割を担っています

二酸化炭素の排出によるリスク

プライベート・エクイティ・気候リスクの調査によると、LNG産業の拡大により建設される新基地は、年間9,600万トン相当の二酸化炭素を排出する可能性があり、これはおよそ242基のガス火力発電所からの排出量に匹敵します。

事業の開発者たちは「LNGは(脱炭素への)移行燃料である」との姿勢を取っていますが、コーネル大学のロバート・W・ハワース教授の研究によると、実際にはLNGは石炭よりも深刻な影響をもたらす恐れがあることが分かっています。生産・供給・輸送などを含めたライフサイクル全体を考慮した場合、LNGが気候変動に与える影響は石炭の24倍にも及ぶ可能性があるということの調査結果も出ています。

また、汚染物質の排出も深刻なリスクです。リオ・グランデLNGから排出されるメタン、ベンゼン、揮発性有機化合物などの物質には、呼吸器疾患の誘発、胎児への悪影響、発がん物質の放出など様々な健康リスクが懸念されます。有色人種の低所得世帯が多く、十分な医療設備の整っていない地域において、このようなリスクは住民の生死を左右する問題であると指摘されています


代表団のメンバー(撮影:RAN / Masaya Noda)

今回の代表団訪問に際したSOMPOホールディングスとの会合は対立的なものではなく、両者側の敬意をもって行われました。私たちは同社の対話に対する姿勢を歓迎します。

しかし、今回のリオ・グランデLNGの件で明らかとなったように、顧客による先住民族の権利侵害などを防ぐためには、SOMPOは早急に先住民族の権利保護に関する方針と人権デューディリジェンスを導入する必要があります。

各調査によって明らかになった事業のリスクは、地域住民だけでなく事業を支援する企業にも多大な影響を与えるものです。SOMPOを含む損害保険会社、および事業を支援する金融機関には、LNG事業が持つ経済、環境、そして自身の社会評判へのリスクを考慮し、事業への関与の再検討を求めます。

参考資料

Share this article