2022年6月15日
共同声明:
MS&ADの新気候方針は東京海上やSOMPOの水準を超えず
~問われる1.5度目標との整合性~
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGO 350.org Japan
メコン・ウォッチ
6月15日、日本の大手損害保険会社の1つであるMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社(以下、MS&AD)は、「サステナビリティの考え方」を改訂し、炭鉱開発の新規保険引受の停止等を表明しました(※1)。しかし、MS&ADのこの方針変更は、SOMPOホールディングス(以下、SOMPO)や東京海上ホールディングス(以下、東京海上)の方針を上回るものではなく、単に他社の方針に追従している姿勢は大変残念です。MS&ADは、早急に以下の課題を解決し、方針強化を行うことが必要です。
1.既設の石炭火力発電所・炭鉱開発および運営への新規保険引受・投融資については例外規定を設けている
今回の方針改定では、「既設の石炭火力発電所および主に一般炭を算出する炭鉱の開発と運営に関する新規の保険引受や投融資は行いません。ただし、パリ協定の合意事項達成を目的に、脱炭素化技術・手法を取り入れている案件については、慎重に検討の上、対応を行う場合があります」としており、パリ協定の目標達成に整合しない可能性の高いアンモニア混焼等を用いる石炭火力発電所についても、将来的に保険を引き受ける余地を残しています(※2)。例外なく、保険引受および投融資を停止する方針にするべきです。
2.石油・ガス事業の停止方針がない
5月27日、SOMPOはオイルサンド開発、北極野生生物国家保護区でのエネルギー採掘事業への新規保険引受の停止を表明しましたが、MS&ADの新方針は、オイルサンド開発および北極圏におけるガス・油田採掘について、停止ではなく「今後慎重に判断する」のみに留まっています。2021年5月に国際エネルギー機関が発表した報告書「Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector」によると、あらゆる新規の化石燃料採掘事業は行うべきではなく、電力セクターにおいては世界全体で2040年には排出量をネットゼロにする必要があります(※3)。すでに、スイス再保険やアリアンツを含む保険会社8社が、新規石油・ガス事業の保険引受を包括的に停止する方針を発表しています。したがって、2050年ネットゼロを達成するためには、オイルサンド開発・北極圏での化石燃料事業を含め、あらゆる新規の化石燃料採掘および火力発電の保険引受停止が必要になります。
3.石炭事業の既存契約に関するフェーズアウト目標がない
6月9日に発表された環境NGOの国際ネットワーク「Insure Our Futureキャンペーン」と、韓国の環境NGO「Solutions for Our Climate (SFOC) 」による報告書「Exposed: The Coal Insurers of Last Resort(※4)」によると、MS&ADはベトナムで建設中のブンアン2石炭火力発電所(以下、ブンアン2)に約12億1600万ドルの保険を提供しており、ブンアン2の最大の保険引受者であることが判明しています。今後、ブンアン2が稼働期間に入った場合にも引受者になるかはわかりませんが、MS&ADは石炭事業の既存保険契約に関するフェーズアウト計画がありません。つまり稼働期間に入った石炭火力発電所の既存顧客の保険引受に制限を設けていないのです。すでにアクサ、スイス再保険、アリアンツ、アクシスキャピタル、チューリッヒ等の保険会社が、自社のポートフォリオから石炭事業のエクスポージャーを世界全体で2040年までにゼロにする方針を掲げています。日本の保険会社では石炭フェーズアウト目標を掲げているところはありませんが、銀行では3メガが、設定期限や対象範囲に問題はあるものの、石炭火力事業に対する貸付残高ゼロ目標を掲げています。よって、保険会社には一層の強化が求められます。
4.引受ポートフォリオに関する排出量の中期目標がない
2021年6月に開催された保険開発フォーラムでは、アントニオ・グテーレス国連事務総長が「損害保険会社は石炭及び化石燃料事業への保険引受を含めたポートフォリオにおけるネットゼロ目標を設定する必要があります」(※5)と述べています。MS&ADは、本日Net-Zero Insurance Alliance(NZIA)への加盟を発表(※6)しましたが、引受ポートフォリオ排出量の中期目標を掲げる必要があります。目標設定に課題はあるものの、日本の3メガバンクは電力セクター向け投融資ポートフォリオの排出量について、すでに中期目標を設定しています。
以上から、MS&ADに対して、化石燃料への保険引受および投融資に関して、早急な方針強化を求めます。また、SOMPOと東京海上に対しても、石油・ガス事業を含む新規化石燃料事業への保険引受の停止方針、既存の石炭事業に関するフェーズアウト目標、2050年ネットゼロ及びパリ協定に整合するポートフォリオ目標を策定するよう強く求めます。
本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES) 田辺有輝(tanabe@jacses.org)
注:
※1:https://www.ms-ad-hd.com/ja/csr/summary/materiality.html
※2:https://www.kikonet.org/info/publication/hydrogen-ammonia
※3:International Energy Agency (IEA), (2021), Net Zero by 2050, A Roadmap for the Global Energy Sector, p. 20, IEA, Paris, https://iea.blob.core.windows.net/assets/0716bb9a-6138-4918-8023-cb24caa47794/NetZeroby2050-ARoadmapfortheGlobalEnergySector.pdf
※4:http://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2022/06/kepcoreportjp.pdf
※5:https://www.un.org/sg/en/content/sg/statement/2021-06-08/secretary-generals-closing-remarks-insurance-development-forum
※6:https://www.ms-ad-hd.com/ja/news/irnews/irnews-20220615/main/00/link/Net-Zero%20Insurance%20Alliance.pdf